2018-09-10

フリーランスになって変わったことと変わらないもの(後編)

前回「フリーランスになって変わったことと変わらないもの(前編)」からのつづきです。

フリーランスか、正社員か

フリーランスになるか、正社員という立場を守るのかはかなり迷いました。フリーランスは確かにお金がいいようでした。しかし正社員であればちょっとのことで仕事がなくなることはないように思えます。将来のリスクなどは今考えたところで結局は分からないものですが、比べるならどちらが、ということは言えてしまえるものです。

将来の不安で頭がいっぱいでした。幸い、再び誘いの声をかけてもらえて、正社員でいることに傾きます。給料はまあまあでした。ベンチャーほど危なげもなく、大企業ほど形式化されてもいない、ほどよくバランスのとれたよい会社だったように思います。が、それでも半年ほどで辞めてしまいます。辞めたのは会社に何か特別な理由があるというよりは、僕に迷いが残り続けていたためだと思います。

この選択は正しかったのだろうか、いつまでもこの疑問を繰り返しました。辞めてしまえばさらに経歴が汚れる。しかしそれは正社員であることを選択するためのもの。正社員であることはそんなに大事なことだろうか。ずいぶんと時間をかけました。そして、その脅迫的観念は社会通念上の価値であると考えるに至りました。正社員である方がいい、これは自分の価値観で言っているものではないわけです。

フリーランスになってよかったこと

ITのフリーランスは、フリーランスと言っても、常駐型であれば中小の正社員であることと大して変わりません。やはりお客様先に出向いてシステム開発をします。仕事のやり方が変わることはありません。お客様もその違いを意識してはいません。それでいて会社内の政治的なしがらみがなくなるのですから、なんといっても気楽です。

しがらみのなさはよい方に作用しています。失うものが少ないので、考えることが少なくて済みます。考えることが少なければ、仕事に専念することができます。僕の場合、失うものがないという安心感があると力を発揮できるようです。なので、今は存分に仕事することができているという実感があります。当事者意識をもってもらえて助かるとも言われます。単に意識を仕事に向けているだけですが。

また、会社員でSESをやっていたときよりは自分の都合で仕事を選べるというのはあります。新しい技術に触れられていることも、フリーランスをやってよかったと思えることのひとつです。しかしこれは個人の境遇なのであって、正社員かフリーランスかということだけの問題ではないでしょう。から、結果的によかった、それだけのことかもしれません。

これからもフリーランスを続けるか

先々月のことです。7年一緒に仕事をしていた方から正社員雇用のお誘いを受けました。システム開発プロジェクトのマネージメントができる人をほしいということのようでした。ありがたいことです。一緒に仕事をしてきて、期待するのはそこでできていたことだと言ってもらえました。不安要素に敏感な僕ですから、それは願ってもないお話です。

しかしそのお話はお断りしました。考えてみると、今現状に不満がないのです。むしろ、気持ちよく仕事ができていると感じます。お金はまあまあです。将来的なリスクはあるのかもしれませんが、それは解決済みの問題です。そういう意味では覚悟がついたのかもしれません。自分の選択に納得していますし、それをひっくりかえすだけのメリットとはなんだろうかと考えました。

いい意味でなるようになってしまって、今はただ目の前の仕事をするだけ、という感じです。いろいろ迷っていたときの執着はかなり小さくなりました。思えば、新卒で入った会社を諦めて最初の転職をしたときも同じような気分でした。迷っていたものは既に手放してしまっているのだから、あとはやることをやるだけです。割り切っただけとも言えます。


出来事にそのものに意味はありません。いろんなものが、人が、状況が、なるようになって今があります。ならば、そこで生じた感情にもやはり意味はないのかもしれません。考えているつもりの理屈も、自分の感情を肯定するためだけに組み立てることができてしまいます。そういう不安定さに気がつけば、少しは楽に生きることができるかもしれないと考えたりもするわけです。

少なくとも言えることがあります。システム開発はその周辺作業も含めてそれなりに楽しいですし、プログラミングは中学高校のときからやりたいと思っていたことです。今それが自分の仕事になっているのだから、恵まれているのか、運がよいのか、とにかくありがたいことだなと思っています。

福地春喜
フリーランスのソフトウェアエンジニア
情報資源管理としてのデータベース・コンテンツ設計に関心があります。数学や哲学、認知言語学など対象の捉え方に係る考え方に興味があります。システム開発の傍ら、それを推進するチームの体制やプロセス・仕組みづくりの支援もしています。 もっと詳しく